【開発実績】店舗オペレーションを劇的に効率化する在庫・発注管理アプリ開発事例
- 開発部
- 10月23日
- 読了時間: 10分

プロジェクト概要
小売業界では、人手不足と人件費高騰が深刻化する中、店舗運営の効率化が喫緊の課題となっています。
特に在庫管理と発注業務は、従来から紙やExcelベースで行われることが多く、ベテランスタッフの経験と勘に依存する属人的な運用が続いていました。
このたび、関東圏で生活雑貨店を25店舗展開するA社様より、「店舗スタッフが直感的に使える在庫・発注管理アプリを開発してほしい」とのご依頼をいただきました。
従来の業務では、毎日の在庫確認に1店舗あたり約2時間、発注業務に約1時間を要しており、さらに発注ミスによる欠品や過剰在庫が売上機会損失と廃棄ロスを生んでいました。
本プロジェクトでは、React Nativeを採用したスマートフォンアプリを開発し、バーコードスキャンによる在庫確認、AIによる発注提案、本部とのリアルタイム情報共有を実現しました。
導入後、在庫管理業務時間は約70%削減、発注精度は95%以上に向上し、欠品率は従来の1/3以下に改善されました。
お客様が抱えていた課題
1. 在庫確認作業の非効率性
店舗スタッフは毎日閉店後に紙の棚卸表を使って在庫を確認し、翌朝にExcelへ手入力するという二重作業を強いられていました。
1店舗あたり毎日約2時間を在庫確認に費やし、残業の常態化を招いていた
手書きからExcelへの転記時に入力ミスが発生し、在庫データの信頼性が低下
リアルタイムで在庫状況を把握できないため、接客中にお客様への回答が遅れていた
2. 発注業務の属人化と精度の問題
発注業務は店長やベテランスタッフの経験に大きく依存しており、担当者によって発注量にばらつきが生じていました。
季節変動や曜日特性を考慮した発注ができるスタッフが限られ、異動や退職時に引き継ぎが困難
発注忘れや発注量の誤りにより、週に平均3〜5品目の欠品が発生していた
逆に過剰発注による在庫過多も頻発し、年間約800万円の廃棄ロスが発生
3. 本部と店舗間の情報連携の遅延
各店舗の在庫・売上データが本部に集約されるまでに1〜2日のタイムラグがあり、迅速な経営判断ができませんでした。
全店舗の在庫状況を本部が把握するのに毎週月曜日まで待つ必要があった
売れ筋商品の店舗間移動(横持ち)の判断が遅れ、販売機会を逃していた
キャンペーンや天候変化への対応が後手に回り、競合他社に顧客を奪われるケースが増加
解決策:現場ファーストの在庫・発注管理アプリ
システムの基本的な仕組み
本アプリは、店舗スタッフのスマートフォンを「携帯できる在庫管理端末」に変えるソリューションです。
バーコードをスキャンするだけで在庫確認・登録ができ、過去の販売データとAI分析に基づいた発注提案を自動で受け取ることができます。
すべてのデータはクラウド上でリアルタイムに同期され、本部と全店舗が常に最新情報を共有できます。
分かりやすく例えると:
スマートフォンアプリ = 店舗スタッフの「ポケットに入る在庫管理の相棒」
AI発注提案機能 = ベテランスタッフの「経験と勘をデジタル化したアドバイザー」
クラウドデータベース = 全店舗と本部をつなぐ「リアルタイム情報共有の掲示板」
これらが連携することで、誰でも・いつでも・どこでも正確な在庫管理と最適な発注が可能になります。
主な機能と効果
1. バーコードスキャン在庫確認機能
何ができるか:スマートフォンのカメラで商品バーコードを読み取るだけで、その場で在庫数の確認・修正ができます。
専用のハンディターミナルは不要で、普段使いのスマートフォンがそのまま業務端末になります。
カメラでバーコードを読み取り、0.5秒以内に在庫情報を表示
在庫数の修正はテンキー入力またはプラス・マイナスボタンでワンタップ操作
複数商品の連続スキャンに対応し、棚卸作業を一気に完了可能
お客様のメリット:
在庫確認作業時間を従来の約2時間から約30分へ、70%以上短縮
専用端末の購入・保守コストが不要となり、年間約150万円のコスト削減
新人スタッフでも初日から在庫確認業務を担当可能に
2. AI発注提案・自動発注機能
何ができるか:過去の販売実績、曜日・季節の傾向、天気予報、近隣イベント情報などを分析し、商品ごとに最適な発注量を自動で提案します。
スタッフは提案内容を確認してワンタップで発注を確定できます。
過去1年分の販売データを学習し、商品別・曜日別の需要を予測
天気予報APIと連携し、気温や天候による売上変動を発注量に反映
発注締め時刻の2時間前にプッシュ通知でリマインド
お客様のメリット:
発注精度が75%から95%以上に向上し、欠品率を1/3以下に削減
発注業務時間を約1時間から約15分に短縮、75%の時間削減
ベテラン依存から脱却し、誰が担当しても安定した発注品質を実現
3. リアルタイム在庫ダッシュボード
何ができるか:全店舗の在庫状況を本部からリアルタイムで一覧確認できるダッシュボード機能です。
在庫過多・在庫不足のアラートを自動表示し、店舗間の在庫移動指示もシステム上で完結します。
全25店舗の在庫状況を1画面で俯瞰表示
設定した閾値を下回る/上回る商品を自動でアラート表示
店舗間移動の指示・実績をシステム上で管理し、履歴を記録
お客様のメリット:
本部での在庫把握が1〜2日遅れからリアルタイムへ改善
店舗間移動の最適化により、販売機会損失を年間約500万円削減
データに基づいた迅速な経営判断が可能に
技術的な特徴(専門用語を分かりやすく解説)
React Native
React Nativeとは:Facebook(現Meta)が開発した、iPhoneアプリとAndroidアプリを1つのプログラムで同時に作れる技術です。
通常、iPhoneとAndroidは別々の言語で開発する必要がありますが、React Nativeを使えば1回の開発で両方に対応できるため、開発コストと期間を大幅に削減できます。
採用理由:
iOS・Androidの両方に対応したアプリを単一のコードベースで開発でき、開発コストを約40%削減
スタッフの私物スマートフォン(BYOD)での利用を想定し、多様な機種への対応が容易
カメラ機能やプッシュ通知など、スマートフォンならではの機能をフル活用可能
将来的な機能追加や改修も迅速に対応できる拡張性の高さ
クラウドアーキテクチャ(AWS)
クラウドアーキテクチャとは:自社でサーバーを持たず、インターネット上のコンピューターリソース(AWS:Amazon Web Services)を借りてシステムを動かす仕組みです。
必要に応じてリソースを増減できるため、店舗数の増加にも柔軟に対応できます。
本システムでの活用:
25店舗から同時にアクセスしても快適に動作する安定したサーバー環境を構築
データは自動で複数拠点にバックアップされ、災害時にもデータを保護
店舗数が増えても追加投資なしにシステムを拡張可能
セキュリティ対策もAWSの最新機能を活用し、情報漏洩リスクを最小化
開発プロセスと期間

フェーズ1:要件定義・設計(2ヶ月)
現場の声を最優先に、実際に在庫管理・発注業務を行うスタッフへのヒアリングを徹底的に実施しました。
5店舗のスタッフ計15名にインタビューを行い、「本当に使いやすいアプリ」のあるべき姿を具体化しました。
主な活動:
現場スタッフ15名への業務ヒアリング(各60分)
現行業務フローの可視化と課題の優先順位付け
画面遷移図・ワイヤーフレームの作成とスタッフレビュー
既存基幹システム(販売管理・会計)との連携方式の設計
フェーズ2:開発・実装(6ヶ月)
アジャイル開発手法を採用し、2週間ごとに動くアプリを確認いただきながら開発を進めました。
現場からのフィードバックを随時反映し、「使ってみたら違った」という手戻りを最小化しました。
開発体制:
プロジェクトマネージャー:1名
システムエンジニア:2名
フロントエンドエンジニア:1名
UI/UXデザイナー:1名
主な活動:
2週間スプリントでの反復開発(計12スプリント)
毎スプリント終了時にお客様への動作デモと機能確認
パイロット店舗(3店舗)での先行テストとフィードバック収集
AI発注提案機能の学習データ準備と精度チューニング
フェーズ3:テスト・移行・導入支援(2ヶ月)
全店舗への展開に先立ち、徹底的なテストと段階的な導入を実施しました。
特に現場スタッフへの研修に注力し、「アプリが苦手」というスタッフにも安心して使っていただける環境を整えました。
主な活動:
全機能の総合テストおよび負荷テスト(25店舗同時接続を想定)
既存基幹システムとのデータ連携テスト
店舗責任者向け研修(2時間×25店舗)の実施
操作マニュアル・動画チュートリアルの作成
導入初週の現地サポート体制の構築と運用
投資対効果
開発費用
総額:1,650万円
内訳:
システム設計・開発:1,200万円
UI/UXデザイン:150万円
インフラ構築・セキュリティ対策:150万円
導入支援・研修:150万円
※ 月額運用費:15万円(クラウド利用料、保守サポート含む)
導入効果(年間)
直接的効果
業務時間削減効果:約720万円
在庫確認業務:1店舗あたり1.5時間/日削減 × 25店舗 × 300日 × 時給1,200円 = 約1,350万円分の工数削減
発注業務:1店舗あたり45分/日削減 × 25店舗 × 300日 × 時給1,200円 = 約675万円分の工数削減
削減された時間の約35%を売場作りや接客に振り向け、人件費換算で約720万円相当の価値を創出
廃棄ロス・欠品損失の削減:約650万円
発注精度向上により廃棄ロスを年間800万円から350万円に削減(450万円削減)
欠品率改善により販売機会損失を年間約200万円削減
間接的効果
従業員満足度の向上
残業時間の削減により、スタッフの離職率が前年比20%改善
「作業」から「接客・売場づくり」へ業務シフトし、やりがいが向上
新人教育期間が従来の2週間から3日間に短縮
経営判断の迅速化
リアルタイムデータに基づくキャンペーン施策の即日実施が可能に
店舗間の売れ筋商品移動が迅速化し、全社での在庫回転率が15%向上
データドリブンな経営基盤の構築により、出店計画の精度も向上
投資回収期間:約1年2ヶ月
お客様の声
「正直に申し上げると、当初は『また新しいシステムか』という現場の抵抗感がありました。過去にも業務改善ツールを導入したことがありましたが、結局使いこなせずに形骸化した経験があったからです。 しかし、今回は開発段階から現場スタッフの声を徹底的に聞いていただいたことが大きかったと思います。『ここのボタンはもっと大きく』『この画面遷移は面倒』といった細かい要望にも、次の打ち合わせまでに反映していただき、本当に現場目線で作ってくださっていることが伝わりました。 導入後、最も驚いたのは60代のパートスタッフが『これ便利だね!』と率先して使い始めたことです。バーコードをピッと読み取るだけで在庫がわかる、発注もAIが提案してくれるので『あれ、何頼むんだっけ?』がなくなる。シンプルですが、現場の悩みをピンポイントで解決してくれました。 数字で見ても、欠品クレームは月平均15件から3件以下に激減し、お客様満足度調査のスコアも上がっています。何より、スタッフが在庫管理から解放された分、売場づくりや接客に時間を使えるようになり、店舗の雰囲気自体が良くなったと感じています。」
(A社 営業統括部長 田中様)
今後の展開
短期的な改善(6ヶ月以内)
音声入力対応の追加(手が塞がっている状況でも在庫登録が可能に)
本部向けBI(経営分析)ダッシュボードの機能拡充
発注提案AIの精度向上(特売・イベント情報の自動取り込み対応)
中長期的な展開(1-2年)
POSレジとのリアルタイム連携による完全自動在庫更新の実現
画像認識による棚卸機能の追加(棚を撮影するだけで在庫カウント)
他店舗チェーンへの横展開を見据えたマルチテナント対応
まとめ
本プロジェクトでは、「現場スタッフが本当に使いたくなるアプリ」をコンセプトに、店舗の在庫・発注管理業務を抜本的に改善するスマートフォンアプリを開発しました。
React Nativeによるクロスプラットフォーム開発とクラウドアーキテクチャの採用により、低コストかつ拡張性の高いシステムを実現しています。
導入の成否を分けるのは、技術の先進性ではなく「現場に受け入れられるかどうか」です。
今回のプロジェクトでは、開発初期段階からの現場ヒアリング、アジャイル開発による継続的なフィードバック反映、そして丁寧な導入支援により、スタッフ全員が活用できるシステムを構築することができました。
在庫・発注管理のDXをご検討の企業様は、ぜひ一度ご相談ください。




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